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10.62020
遺言書 特別受益の持戻しと持戻し免除

遺産を分ける際、法定相続分を目安にするのが一般的です。
子2人が相続人だった場合、1/2ずつなどがその例となります。
ですが、相続人の一部の人が故人から生前に金銭の支援を受けていた場合、法定相続分で遺産を分けてしまうと支援を受けていない他の相続人は公平でないと不満を感じることになるでしょう。
このようなケースにおいて民法では不公平を解消するためルールを設けています。
1.特別受益とは
一部の相続人が被相続人から遺贈や贈与を受け、特別な利益がある場合にその受けた利益のことを特別受益といいます。
民法では
遺贈、結婚・養子縁組または生計の資本としての贈与となっています。
具体的な例を挙げると
遺言によって不動産を得た、または相続人が住宅を建てるとき被相続人から資金援助を受けていたなどが該当します。
2.特別受益の持戻し
父が亡くなり、姉と弟で遺産3,000万円を法定相続分の半分ずつ分けるところだったが、姉は父の生前にマイホーム購入の為500万円の支援を受けていた。
本文冒頭でお伝えしましたが、相続時にこのような特別受益を受けた相続人がいる場合、法定相続分で遺産を分けると相続人間で不公平が生じます。
上記の例で言うと
法定相続分は半分ずつで姉弟が各1,500万円になりますが、父が生前、姉にマイホーム支援として500万円の贈与をしていた場合、弟は「姉さんはマイホーム資金を援助してもらっていたのに」と不満を感じることになります。
そこで民法ではこの不公平を解消するためにルールを設けています。
先の例で言うと
遺産3,000万円に贈与された500万円(特別受益)を加え算定、遺産総額を3,500万円としてみなして法定相続分を計算します。
法定相続分は1/2ずつなので姉弟ともに1,750万円となります。
次に姉の相続分1,750万円からマイホーム支援額の500万円を差し引きます。
1,750万円-500万円=1,250万円
この1,250万円が姉の相続分となります。
結果、姉の相続分は1,250万円 弟の相続分は1,750万円となり、相続人間において公平な遺産の分け方となります。
このような相続人の間における不公平を是正するルールを特別受益の持戻しと言います。
3.特別受益の持戻し免除
特別受益の持戻しは相続人間の公平を図る制度となっていますが一方で被相続人が希望しない場合もあります。
例えば、生前に妻へ不動産を贈与していた場合です。
遺産3,000万円(預貯金)相続人は妻A、子BCの2人
特別受益は生前に妻への不動産贈与(2,000万円)
特別受益の持戻しをすると
3,000万円に2,000万円を加え5,000万円がみなし相続財産になります。
そこから法定相続分で算定すると妻Aは1/2で2,500万円、子BCは1/4でそれぞれ1,250万円ずつになります。
次に妻Aの2,500万円から特別受益である2,000万円を差し引きます。
2,500万円-2,000万円=500万円
この額が妻Aの相続分になります。
妻は住むところには困りませんが、生活費や税金の支払いなど金銭的にこれからの生活に不安が残ります。
このようなことは被相続人である夫の本意ではないと思います。
そこで特別受益の持戻しをしないようにと遺言書に書き意思表示することによって妻により多くの遺産を残すことができます。
具体的には持戻しをしないことにより、特別受益を算定に入れず法定相続分を出すことができます。
上記の例でいえば、
遺産3,000万円の妻の法定相続分1/2は1,500万円ですので、持戻しをした時の金額より1,000万円多い1,500万円の相続財産を受け取れることになります。
このような事情により特別受益の持戻しをあえてしないことを特別受益の持戻しの免除と言います。
4.改正相続法
2019年7月に施行された改正相続法では
婚姻期間が20年以上の夫婦の間で自宅(居住用不動産)を遺贈・贈与した場合には持戻しの免除の意思表示があったと推定することになりました。
従来の制度では意思表示がない場合には原則持戻しが適用されましたが前記の条件下では持戻しの免除が原則となります。
これにより遺産分割において自宅などの居住用不動産を特別受益として扱わずに計算することができ、配偶者の遺産取得額が増えることになりました。
5.まとめ
特別受益の持戻し免除には被相続人の意思表示が必要です。
明示の意思表示と黙示の意思表示が認められており、意思表示が認められれば口頭や書面、遺言書等の明示の意思表示、状況から推測され意思表示があったと判断される黙示の意思表示どちらでもよく、種類は問われません。
しかし、口頭での意思表示や黙示の意思表示は他の人にはわかりずらいためトラブルの原因になりかねません。
特別受益の持戻し免除は相続人の間における不公平を是正して不満を解消する制度を適用しないというものです。
余計なトラブルを起こさないためにも書面や遺言書など後に残るものを利用して意思表示をおこなうのが安心です。