永住と帰化、どちらも在留期間の期限や就労の制限はありません。取得すれば定期的に訪れる煩わしい更新手続きや、制約や限度のある就労時間・雇用形態・職種などがなくなり、これからも日本に住み続けたいといった外国人にとっては暮らしやすくなる在留資格・制度です。
永住と帰化には、国籍を変えずに日本に住み続けるか、もしくは、国籍を取得し日本人として暮らすかといった決定的な違いはありますが、それぞれに、先に述べた在留期限や就労制限がなくなるといった特徴があります。その為、永住か帰化かと二者択一な話になりがちな制度ですが、他方で永住者ビザを取得したのちに様々な考えから帰化する方もいらっしゃいます。
目次
永住ビザ取得から帰化するメリット
永住者が帰化することで次のようなメリットが享受できます。
- 在留資格に関する一切の手続きが不要になる
- 永住権取り消しや退去強制などの不安要素がなくなる
- 日本の氏名を持つことができる
- 戸籍を作ることができる
- 査証なしで多くの国へ行くことができる
- 就職する、起業する、部屋を借りる、融資を受けるといった際、外国籍よりもスムーズになる
以上のようなメリットが挙げられますが、そのような中でも特に在留資格関連のメリットについては強く感じることができるのではないでしょうか。
例えば、在留カードの更新は不要になり、再入国許可やみなし再入国許可といった出入国に関する制約もなくなります。つまり、煩わしい手続きや制約を気にすることがなくなります。
更には、上記を含む様々なルールを守れなかったときにおこりえる永住権の取り消しや退去強制がなくなることも帰化することで強く感じられる在留資格関連のメリットのひとつと考えます。
永住ビザ取得からの帰化条件
帰化には7つの条件があります。 永住ビザ取得者は以下の条件を満たすことにより帰化の許可が得られ、日本国籍を取得することができます。
1.住所条件
申請時に引き続き5年以上日本に住んでいることが求められます。また、就労系在留資格をもって3年以上働いていることも条件となっています。
一般的な永住権は10年以上日本に住んでいることが条件ですので心配することはないと思いますが、永住権の取得後、90日以上の出国、又は1年間のうち合計でおおよそ100日以上の出国がある場合には引き続き住んでいる期間としては認められませんので注意が必要です。
2.能力条件
帰化を希望する人が18歳以上であり、母国の法律で成人に達していることが条件となっています。
例えば申請時に20歳である場合、18歳以上の条件はクリアしていますので母国での成人年齢が同様に18歳であれば問題なく条件を満たしていることになります。
しかし、母国での成人年齢が21歳の場合には条件を満たしていませんので単独での帰化申請はできないことになります。
ご自身で永住権を取得している方は問題ないと思いますが、子供の頃に親と一緒に永住権を取得している方は注意が必要です。
3.素行条件
素行が善良であることが条件となっています。
具体的には、義務づけられた税金(所得税や住民税など)を納めているか、年金を継続的に滞りなく支払っているか、健康保険料は支払っているか、犯罪(交通違反など含む)を犯していないかについて確認していくことになります。
4.生計条件
日本で安定的な生活ができるだけの経済力があることが条件となっています。
定期的で継続して大きい金額が毎月収入として手に入ればいいというわけではなく、その収入に対してどのくらいの支出があり、今後、経済的に生活に困るようなことがないかと収支のバランスを求められることになります。
経済力は申請者本人のみの単独での経済力だけではなく、同居する配偶者などといった生計をひとつにしている家族などがいる場合にはその家族等を含めた単位でのものとなります。
5.重国籍防止条件
日本の帰化申請では重国籍を防止するための条件が設けられています。
つまり母国の国籍を持ち続けながら日本国籍を持つという2重国籍は認めておらず、日本の国籍を取得するには母国の国籍を離脱することが求められています。
外国籍を保有し、日本に無期限に在留できる永住権とは異なり、帰化の場合には元の国籍から離れることが条件となっています。
6.憲法遵守条件
日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを企て、若しくは主張し、又はこれを企て、若しくは主張する政党その他の団体を結成し、若しくはこれに加入したことがないことが求められます。
つまり反社会的な活動をしていないか、または過激派やテロ組織、暴力団などといった反社会的勢力に過去も含めて加入していないことなどが挙げられます。
7.日本語能力条件
国籍法に記載はない条件ですが、一定程度の日本語能力が求められます。
一般的には小学校3年生レベル、日本語能力検定N3程度が必要と言われています。
条件の審査は法務局の担当官が面接など申請者とのやり取りや動機書等の日本語記述を見て行います。その際、担当官が日本語能力に疑問を持った場合には日本語テストが実施されます。
永住ビザから帰化申請への手順
帰化申請は永住ビザを申請した入管(出入国在留管理庁)の取り扱いではなく、法務局になります。ご自身の住所地を管轄する法務局を調べて手続きを進めていきましょう。
帰化申請から許可までの流れには複数のステップがありそれぞれに一定程度の期間を要します。具体的には➀相談予約➁相談③書類収集と作成④帰化申請⑤面接⑥審査⑦許可となっており、一般的には全体でおおよそ1年前後の期間が必要と言われています。
1.相談予約
申請者であるご自身の住所地を管轄する法務局に相談の電話予約をします。
埼玉県にお住いの場合、帰化申請の取り扱いはさいたま地方法務局戸籍課のみとなっていますので管轄を調べる必要はありませんが、東京都や神奈川県、千葉県などは複数の法務局・支局で受け付けていますのでご自身の担当管轄を必ずお調べの上電話予約をしてください。 予約日については混雑状況にもよりますがおおよそ2週間から1ヶ月先になることが多いようです。
2.相談
予約日当日に法務局で担当者と帰化申請について1時間程度の時間をかけて相談をおこないます。
担当者は申請者本人の話や家族についての話、仕事・収入などの話を聞いてきます。申請者が帰化の条件を満たしているか確認し、申請に必要となる書類を指示するための質問内容となっていますので正直かつ、できるだけ正確に答えるようにしてください。
やり取りを経て、申請者に特に問題がなさそうであれば帰化許可申請書類の点検表などで次回までに集めてくるよう書類を指示されます。指示された書類を集め、再度、法務局に相談した際に帰化許可申請のてびきや帰化許可申請書類が渡され、提出する必要書類の案内をしてくれる流れが一般的となっています。
てびきには申請書類作成についての注意事項や作成例、必要書類一覧表などが記載されていますので書類作成時や書類取り寄せ時の参考になります。
なお、東京都では事前に記入した帰化相談質問票を相談時に持ってくるように東京法務局HPで案内しています。自身についての情報や家族についてなどの項目があり、記入していけば記載事項については正確に伝えられますので東京都で申請する方は準備を忘れないようにしてください。
3.書類収集と作成
法務局で案内された書類を取り寄せ、作成していきます。
基本的には渡された帰化許可申請のてびきなどを参考にして書類作成や取り寄せをしていきますが細かい点や不明点などは自身で調べたり、法務局に問合せしながら進めていきます。 申請に必要になる住民票や戸籍謄本、課税証明・非課税証明書、納税証明書などといった書類の多くは公的機関から発行してもらうため平日に役所等で手続きをする必要があります。会社員の方であれば休みを取り、役所などに向かうことになりますので事前に市役所では○○書類と○○書類を〇年分、税務署では○○書類〇年分、法務局では○○書類とある程度計画して効率的に回らないと何日も足を運ぶ必要になり、その都度会社を休むことになります。
4.帰化申請・受理
帰化許可申請のてびきや法務局でのアドバイスなどで帰化許可申請書類が整ったら法務局に連絡して予約をいれます。当日は申請者本人が書類一式を持参して法務局に登庁し、作成した帰化許可申請書類を担当者に確認してもらいます。
書類に不備や不足がなければ次の段階(東京法務局といった規模が大きい法務局は当日に申請・受理、さいたま地方法務局などは別日に申請受付日を設け、受付日に申請・受理)に進めますが、多くの方は申請に不慣れなため、なにかしらの指摘を受けることが多く、書類の修正や再度の取り寄せといった対応を求められます。
5.面接
帰化許可申請書類の受理後、おおよそ3ヶ月前後に法務局から申請者に連絡があり、面接の日程を決めていきます。面接は法務局で実施され、当日は1時間程度提出した申請書類に沿って質問されます。
質問内容としては、帰化の理由や動機はもちろんのこと、日本に来た理由や経緯、仕事や収入といった申請者本人に係わることが中心ですが配偶者や子供といった家族についても質問されます。また、交通違反や犯罪関係などといったことについても聞かれます。
法務局では事前に申請者の調査をおこなっています。嘘や偽りは許可への悪影響を及ぼす可能性がありますので質問には正直に答えるよう心掛けてください。
面接は提出した帰化許可申請書類の記載内容について確認する一方で、質問に答える申請者の日本語能力を確認する場でもありますので緊張すると思いますが、落ち着いて丁寧に答えるようにしてください。
6.審査
面談後の審査期間中は基本的に申請者自ら帰化許可申請について行動をおこすようなことはありませんが、帰化許可申請のてびきに記載があるように帰化申請後に結婚や離婚、転職や引っ越しなど申請内容に変更が生じた場合には申請者が法務局の担当者に連絡する必要があります。 また、期間中には法務局から追加書類の提出などを求められるケースもありますので連絡があった場合には速やかに対応してください。
7.許可
官報に氏名・住所が記載され法務局から帰化が許可された旨の連絡が入ります。
法務局または郵送で帰化者の身分証明書の受領と帰化後の手続きについて説明、郵送の場合には案内用紙を受け取ります。
永住ビザからの帰化申請書類
帰化の申請に必要な書類は次のようになります。
ただし、申請する方の国籍・身分・職業など個々の状況に応じて必要な書類が異なりますので詳しくは申請先の法務局や行政書士にご相談ください。
- 帰化許可申請書
- 親族の概要を記載した書類
- 帰化の動機書
- 履歴書
- 生計の概要を記載した書類
- 事業の概要を記載した書類
- 住民票の写し
- 国籍を証明する書類
- 親族関係を証明する書類
- 納税を証明する書類
- 収入を証明する書類